東愛知新聞健康コラム
癒しの養生学5 (H16/10/02)
●腹八分目
養生訓の中には、心の持ち方から季節に応じた生活習慣、薬の飲み方、さらには医者の選び方など、私たちが日常の生活を送るためにあらゆる養生法が記載されています。中でも皆さんもしばしば耳にする「腹八分目にて災いなし」などの食養生については、多くのスペースが割かれています。これらの食養生は、今でも全く色あせることなく、むしろどんな食べ物でも簡単に手に入る現代人にこそ必要な情報ばかりです。
「穀(ご飯)は肉に勝つべし、肉は穀に勝たしむべからず」といったご飯を中心にした食生活の大切さ、「聖人の食を真似よ」聖人は、決まった食事時間にしか物を食べず、旬の時期でないもの、味の濃いもの、脂っこいもの、冷たいものを嫌い、淡白なものを好んで食べたことなど、今の私たちにとっては大切なことばかりです。
昨今は、健康ブームといわれ、テレビ、雑誌などで健康情報が盛んに取り上げられています。中でも、これを食べたら健康になる、病気にならない、やせられるといった商業ベースにのった情報の氾濫は、医師として心配になってしまいます。最近、摂りすぎで逆に健康に害をおよぼすと報道されたニガリなどが、好例です。体のよいとされる成分が報告されると、それを過剰に摂取しようとする傾向は「食のバランス」を考えれば危険な食生活とわかっていただけると思います。
食養生の基本は何を摂るのかではなく、何を控えるのかということなのです。しかし、患者さんから「テレビで〇〇を食べると健康によいと言っていたがどうですか」といった質問をしばしば受けます。その時には「完全に間違いではないと思いますが、ニガリはニガリを含んだ食塩がよい、お茶は飲むもので食べるものではない、酢は料理に使うもので飲むものではない」そして「その食品を食べ続けるとバランスが偏りませんか。そして、その食品をこれからずっとずっと摂り続けることができますか」と答えるようにしています。食事は毎日のものです。食養生も毎日続けられなければ意味がありません。
食養生の意味を考え、その上で養生訓には、「食事は五思を忘れず感謝していただく」と書かれています。五つの思いとは、父、母、家族への思い、農夫への思い、食事が満足に食べられない人への思い、大昔の苦しかった先人への思い、自分が未熟にも関わらず、食することができることへの思いです。この「五思」の1つでも2つでも思い巡らせながら食事を摂ることができれば、私たちは、真の心と体の健康を手にすることができるのではないでしょうか。
西田メディカルクリニック 西田 元彦